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2015年12月12日土曜日

[特撮-11] 鳥人戦隊ジェットマンは本当に恋愛ドラマだったのか? 〜その4


こちらのエントリーは連載となっています。
「鳥人戦隊ジェットマン」も分からないようでは、昇進に響くのではないか?と不安な方は、是非こちらのあらすじなどからお読みください。

 [特撮-08] 鳥人戦隊ジェットマンは本当に恋愛ドラマだったのか? 〜その1
 [特撮-09] 鳥人戦隊ジェットマンは本当に恋愛ドラマだったのか? 〜その2
 [特撮-10] 鳥人戦隊ジェットマンは本当に恋愛ドラマだったのか? 〜その3

なお稀に、読んだことで 余計に昇進に響く 場合もございます。
ご了承ください。





さて、今回からいよいよ本題の『鳥人戦隊ジェットマンは本当に恋愛ドラマだったのか?』という部分に切り込んでいく。
これについては以前『結論から先に言うと、恋愛ドラマではなかったし、恋愛ドラマだった』と書いた。


というのは、このドラマでは 3つの恋愛模様が交錯している からなのだ。

1)凱 → 香 → 竜

これがメディアなどで取り上げられる『戦隊内部での恋愛』だ。
しかし「鳥人戦隊ジェットマン」では他に2つの流れがある。

2)竜 → ← リエ
3)バイラム側 / グレイ → マリア ← ラディゲ

この3つが並行して、またある時は 多重的に絡み合い、ドラマを紡いでゆくわけだ。








 マリア ← ラディゲ 



話がややこしくなるので先に一件、例外 を除去しておく。
3)において『マリア ← ラディゲ』と書いたが、実際にはこれは “執着” であって恋愛感情では無い。
ラディゲによる 一方的な所有欲・独占欲 である。



この番組のもう1人の主役と言っていいほどドラマに深く関わり、また時にはその中心に座ることすらあるラディゲであるが、その 鬼畜&ゲスっぷり は数多くのスーパー戦隊の敵の中でもひときわ輝く。
彼の前では「侍戦隊シンケンジャー (2009)」の敵「外道衆」の方々が紳士に見えるほどだ。



あえてここに組み込んだのは、この『マリア ← ラディゲ』という点に彼の屈折したキャラクターがよく表れていると思ったからだ。

まずそもそも論として、宇宙空間に放り出され死にそうになっていたリエを回収し洗脳して "バイラム幹部・マリアに仕立て上げたのはラディゲ である。
そういう意味では創造主なわけだ。

しかしマリア本人はそのことを知らず、普段はラディゲを嘲るような態度を面と向かってとっている。



 (自分の作戦を自画自賛するマリアに対し)
 ラディゲ「(嘲笑)」
 マリア「何が可笑しい!」
 ラディゲ「マリア、たとえお前が何をしようと、この私を超える事はできんのだ」
 マリア「黙れ!!そのうぬぼれがいつまで続くか見ているがいい」
 (第14話)


このラディゲの言葉の本当の意味をマリアは知らない。
つまりラディゲは自分の生み出したものが、自分の手のひらで踊らされているに過ぎないものが、それを知らず自分を蔑む様を見て、1人ほくそ笑んでいるのだ。




ド変態である。



もう一度言う。ド変態である。




それと同時にラディゲが固執しているのはあくまでマリアであってリエではない、というところもポイントである。
つまりラディゲが執着しているのは "所有物としてのマリア” なわけだ。

このラディゲのマリアへのちょっと理解しがたい執着は、物語の最終局面に大きく関わってくる。








 1)凱 → 香 → 竜 



さてド変態の世界にはさっさと別れを告げ、ノーマルな恋愛の世界を見ていこう。
まずは ジェットマン内部での恋愛模様。

この項と次の項に関しては既に何度か触れてきたので、その顛末に絞ってサラッと流す。



結成時のアクシデントにより民間人の寄せ集めになってしまったジェットマン。
その中にあって香は竜に惚れ込む。そしてそんな香に凱が惚れ込む

一方、竜は恋人リエを失うと同時に敵バイラムの襲撃に対し、唯一のプロとして先頭に立って立ち向かわなくてはならず、とても香と向き合うような余裕は無い。
しかしその、香と正面から向き合おうとしない竜の態度余計に凱をいらだたせ、その行動に雷太やアコまで巻き込まれ、とてもチームワークなど望むべくもない。



しかし第30話において 転機 が訪れる。

何度アタックをかけても取り付く島もない竜に対して、身を呈して(分かりやすい形で)自分を助けてくれる凱。
ついに 香は凱の気持ちに応え、2人は付き合うようになる。



(ここで一件落着といけばいいのだが、実際はジェットマンとしての活動がおろそかになるなど新たな火種に…)




ここから1クール程は良い雰囲気が続くのだが、だが所詮、御令嬢育ちの香とアウトローの凱では住む世界が違いすぎ、次第にギクシャクしはじめる。


ギクシャクしはじめた時期、基地に飛び込んできた凱と思わず目があった香の間に流れる微妙な空気はなかなか(嫌な意味で)リアルである。





 アコ「まあ、なんだね。あたしとしてはダメになると思ってたよ。だってさ凱と香じゃ育ちが違いすぎるもん。…竜の方が合ってたんじゃなあい?」
 香「ええ?そんなぁ…」
 (第44話)



結局これは、香の両親との会食の席において決定的 となる。



そして第45話。
アコ、雷太と共に敵に捕らえられ、凱と竜によって助け出された香。
その戦闘の終わった後の二人の会話。

 香 「凱、ごめんね。心配かけて」
 凱 「ああ、心配したさ。俺たちは仲間だ」

ここに 2人の関係はリセットされる こととなる。
そして同時に番組開始から続いた、香を中心とした戦隊内部の恋愛模様も、ここに ひとまずの終結を見る。


さて凱と香2人が一悶着起こしている その頃、竜は…。








 2)竜 → ← リエ 



前回触れたように敵・マリアの正体が恋人リエである事に気づいてしまい、ガタガタに崩れていく竜のメンタル。

リエは一旦正気を取り戻しても、再びラディゲによってマリアに戻されてしまう。
自分が何者なのか。自分に何が起こっているのか。全く分かっていない。
なので一旦マリアに戻ってしまえば、再び躊躇なくジェットマンに、竜に襲いかかってくる。

しかし竜の方はそうはいかない。
もはやマリアと戦うわけにはいかず、必死に呼びかけるその声は届かず、哀れな竜…。


完全に女王様状態のマリア



ここから竜の
リエをバイラムから取り戻すんだ → 無理でした → リエをバイラムから〜 → 無理でした
という 悲しい一人相撲 が続く。

結局は "リエの事は一旦置いておいて、とりあえずはバイラムを倒すことに集中しよう" という所に気持ちを落ち着けるのだが…。






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​さて、これまで軽くスルーしてきたが、本来かなり重要なのが敵・『次元戦団バイラム』である。
バイラム側のドラマ抜きでは「鳥人戦隊ジェットマン」は傑作たりえなかった。

特に中盤以降、それぞれがこう着状態に陥り停滞するジェットマン側に対し、ドラマティックな展開で、ストーリーを引っ張り始めるのはバイラム側である。

しかしメディアなどで取り上げられる際、残念ながらこぼれ落ちてしまうのもここである。



バイラム側の見所は数多くあるのだが、今回は恋愛に絞ったエントリーなので、『グレイ → マリア』を焦点を絞る。

上記2つが、分かり易い恋愛劇の形をとっているのに対し、グレイのマリアに対する感情は複雑だ。「鳥人戦隊ジェットマン」を恋愛ドラマとして見た場合、深みを与えているのがここの部分である。








 3)バイラム側 / グレイ → マリア 



バイラム幹部の1人、グレイ を紹介する。



以前、紹介したようにグレイはロボットである。

誰が、なんの目的で作ったのかなど、その由来は一切語られず、またグレイ自身がそれを知っているのかも触れられることはない。
ただ他の登場キャラクターのような『生き物』でない以上、彼の誕生には何らかの意思が介在していたはずであり、またその構造からして戦闘を目的としたロボットと思われる。

だとすれば、これまた以前述べたように番組開始時点で『組織としてのバイラム』はすでに終焉を迎えているので、全登場キャラクター中、唯一役目を終えた、レゾンデートルを失った存在であり『虚無』ともいえるだろう。



そのせいかバイラム幹部4人のうち、地球侵攻に対し一番冷めた態度で臨んでいる。

自分の立てた作戦がジェットマンに阻まれても「所詮、遊び」とうそぶき、それほど悔しがる様子も見せない。
番組序盤のグレイはクールというより冷めきった、まさにロボットである。
また基本的にいがみ合いのバイラムの中において、グレイだけは争いとは距離を置いている。




グレイの興味はロボットにもかかわらず 酒、タバコ、そして音楽。
こう書けば分かるように、彼は 凱と対を成すキャラクター である。

(凱もジェットマン5人の中で一人だけその出自や、親兄弟含め過去に因縁のあった人物が一切登場せず、過去が明かされない。
 なお、凱がジャズを好むのに対してグレイはクラシックを好む)

グレイと凱は次第に相手を意識し、ライバル関係になっていく。



それぞれの命運を賭けルーレットで勝負する、いかにも2人らしいエピソード。
第39話「廻せ命のルーレット」





だが第13話にて、マリアが演奏するピアノ曲を聴いた時から、グレイは別の顔を見せるようになる。


突然、吸い寄せられるようにピアノの前に座り演奏を始めるマリア。
この時、グレイだけでなくトラン、ラディゲまでもが無言でその様子を見つめるのが印象的だ。


しかしマリアは演奏を中断。
自分のとった行動、そしてなぜピアノを演奏できるのかわけが分からず困惑する。


この時マリアが弾いた、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「熱情」は、その後も『グレイ&マリア』のシーンで使われるようになる。





この時点ではグレイが興味を示したのがマリアなのか、あるいはマリアのピアノ演奏になのかは分からない。

しかしここを起点としてグレイには、ジェットマンとの戦闘中マリアに力を貸す、さらには身を呈して守るような行動が目立ち始める。
その積み重ねから、マリアの方も "グレイは特別" という意識が芽生えていく。

この気持ち(?)の流れは1年を通しとても丁寧に描かれていて、視聴者も敵ながら感情移入してしまうだろう。

お互いをかばい合うグレイとマリア




だが、しかし。
この感情のやりとりは先に書いたような、他のキャラクターたちによる恋愛模様とは 決定的に違う。


グレイは自分がロボットであり『ロボットである自分にはマリアが本当に望むものを与えてやることは出来ない』ということを何度も思い知ることになるからだ。

先程書いた「マリアの方もグレイは特別という意識が芽生えていく」というのも、決してそれ以上ではない。
マリアから見れば、この感情は恋愛ではなく信頼関係なのだろう。


つまり、どう足掻こうが、グレイ → マリア という矢印に変化は訪れないのだ。
その全てを受け入れ、しかしそれでもグレイはマリアを見つめ続ける。




この『グレイ → マリア』は地味ながら非常に見応えがあり、また別のエントリーで触れる予定だ。
今回はあくまで番組全体の恋愛事情の1つとして、その顛末を見ていくことにする。




最終盤、マリアは功を焦るあまりラディゲにつけ込まれ、その操り人形となってしまう。
理性が薄れ、手当たり次第に人間を襲う魔獣となっていくマリア。
もはや自分の声はマリアに届かないと悟ったグレイは、敵であるはずの凱達の前に姿を現す。


そして…




 凱「グレイ!」
 グレイ「………マリアを…頼む」
 凱「何?!」
 グレイ「マリアはお前たちと同じ人間。傷つけてはならぬ」
 凱「何言ってやがるんだ。今のマリアは人間じゃねえ!」
 グレイ「私にはわかる。マリアには人間としての心が残っている。
     人間に戻れる可能性がある」
 凱「…グレイ、なぜだ。なぜ貴様がそんなことを…」
 グレイ「マリアを魔獣にしたくない。それならば人間に戻してやりたい」
 アコ・雷太「…」
 凱「覚えておくぜ…お前の言葉…」
 (第49話)




この “一歩" は果てしなく大きい一歩だ。

なぜなら、マリアが人間に戻るということは自分の手元から去ってしまうということだからだ。

竜が愛しているのはリエである。マリアでは無い。
同じくラディゲが執着しているのはマリアである。リエでは無い。
グレイだけがその境界線を超え、彼女の存在、その全てをありのままに愛する境地に至ったのだ。

しかしその想いをマリア(リエ)が知る事は無い。
果たして彼女を中心としたドラマの行く先は…。






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この番組における恋愛要素が多重構造になっているのがお分かりいただけただろうか。

次回はマリア=リエ編の最終章とも言える・第49話「マリア…その愛と死」


そして一見宙ぶらりんになってしまったかに見える香達のドラマの帰結点・第50話「それぞれの死闘」を通して、この番組におけるそれぞれの恋愛要素の意味の違いを見ていく。


んじゃ、また。