「鳥人戦隊ジェットマン」をご存じないという 残念な方 は、前回のあらすじを見てもらうとして、長年モヤモヤしていたんですが、この番組って面白おかしくメディアで取り上げられてるうちに変な尾ひれがついてますよね?
これなんですが ↓
『戦隊内で三角関係になり、殴り合いが起こる』
この出所不明の煽り文句。結構早い時期から耳にしました。
ちなみに今年(2015年)の写真週刊誌「FLASH」の戦隊特集記事でも「ジェットマン」はこんな紹介。
→ ラブストーリーで大人も魅了 〜(中略)〜 ホワイトをめぐるレッドとブラックのラブバトルが話題に。
ここでも三角関係という言葉こそ使われていないものの、そう思わせる文章…。
しかし実際の番組では、確かに戦隊内での恋愛模様は描かれているし、殴り合いも(しょっちゅう)起こるけれども、三角関係にはなりません!
一体、こんな話どこから出てきたんだろう???
一応確認しておきますが、戦隊内で起こる恋愛模様はこう↓
つまり気持ちの流れは一方向の一直線。
三角関係って『三角』って言うぐらいだから、この場合は違うだろう…と思って辞書を引いたら…
【三角関係】さんかくかんけい―くわん―5
一人の男と二人の女,または一人の女と二人の男との間の複雑な恋愛関係。
(スーパー大辞林より)
うーむ、この表現…。人数が3人ならいいのか?気持ちの流れは関係無いのか?
なら俺の経験したあの時のアレも三角関係だったのか…?!(人に歴史あり)
どうも自分自身が愛の迷路に迷い込みそうになり、考えるのをやめたミツカワであった。
第13話「愛の迷路」 |
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…と、あえてこの話から始めたのは、↓これを強調しておきたかったから。
この番組、三角関係どころか むしろ敵味方入り乱れてのドロドロの愛憎劇になるぞ!
本エントリーのタイトル
『鳥人戦隊ジェットマンは本当に恋愛ドラマだったのか?』
結論を先に言うと 恋愛ドラマではなかったし、恋愛ドラマだった。
別に禅問答をしているわけでは無い。
では、なにが恋愛ドラマではなく、どこが恋愛ドラマだったのか?
そこを再整理しながら「鳥人戦隊ジェットマン」の本当の面白さに触れてもらおうというのが、このジェットマン・エントリーの趣旨である。
この複雑な人間模様を紐解く前に、まず注目しておくべき特徴的な点が2つある。
・登場人物、全てがバラバラ
・レッドホーク / 天童竜のキャラクター造形
人間模様を含めた「鳥人戦隊ジェットマン」の面白さ、そしてこの番組を傑作たらしめたのは、この ”下地づくり” があってこそなのだ。
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・登場人物、全てがバラバラ
これは 敵・味方に共通して 描かれている。
ジェットマンの成り立ちは前回のあらすじの通りだが、この番組が放送された1991年時点で、
・お互いに過去・現在を問わず何の因縁もなく
・また、何者かによって "選ばれた" わけでもない
完全に無関係の者たちによる戦隊 というのは初であった。
それはつまり、お互いに共感もなく、地球を守るということに対して(竜以外は)何の義務も負わない者たちということだ。
番組スタート時での香・雷太・アコは一般的な常識と、表面的な責任感で戦っているに過ぎない。
なので、そういうものを持たない凱は非協力的だし、雷太たちも劣勢とみればすぐに逃げ出す。お嬢様育ちの香は自分の苦手なこと(飛行訓練)を避けようとする。
そしてこの番組のもう一方の主役と言える、敵「次元船団バイラム」にも同じ仕掛けがしてある。
なんだか記念写真のようなバイラムの方々 |
まず、バイラムには中心となるボスが存在しない。
玉座はあるもののその主はすでにおらず、現在は4人の幹部が統率なく好き勝手にやっているだけだ。
つまり番組開始時点で『組織としてのバイラム』はすでに終焉していると言える。
(ここがとても珍しい部分)
なので(少なくともボスを失って以降の)バイラムの目的は地球侵攻ではない。
口ではそのようなことを言っているが、彼らの真の目的は “戯れ” つまり目的を失った者たちによる “暇つぶし” である。
逆に言えば “暇つぶし” で地球を、ジェットマンを、危機に陥れることが出来るほど圧倒的な戦力を保持しているとも言える。
また、これは特にラディゲに顕著だが、地球侵攻は手段であり相手を屈伏させること自体が目的という 倒錯した面 もある。
そのせいで彼は、
・ジェットマンが自分以外の誰かに倒されそうになると、躊躇なく妨害する。
・自分にとって目の上のたんこぶが現れると、これまた躊躇なくジェットマンと手を組み、倒す。
ジェットマンが最終的に勝てたのは 結果的に彼のおかげ という部分も大きい。
また一人一人の風貌を見れば分かるように
・ラディゲ → 男
・マリア → 女
・トラン → 子供
・グレイ → ロボット
とパーソナルな部分から重ならないようになっている。
このうちマリアは元地球人である。(あらすじ参照)
残りの者もロボットであるグレイは論外として、トランとラディゲの2人も、その身なりや能力を見る限り、同種族とも思えない。
そもそも『次元 "船団"バイラム』の"幹部"と名乗りながら、彼ら4人以外は画面に登場しない。まるで "たまたま同じ船に乗り合わせた客同士” のような統一性のなさである。
(前年の「地球戦隊ファイブマン」の敵、「銀帝軍ゾーン」が “船長” を頂きに統率の取れた組織として描かれていたのとは対照的)
当然 仲は悪い が、このバラバラさゆえにお互いのテリトリーが重なることもなく、せいぜい皮肉を交わす程度で済んでいる。
(なので番組中盤、メンバー構成に変化が起こると途端に血なま臭い展開になる)
また先に書いたように所詮戯れなので、そこまでお互いヒートアップすることもない。
番組開始時点ではある意味、軋轢のない平和な状態 である。
しかしここに、トランが子供らしい無邪気さで「ジェットマンを倒したものが僕らのボスになるというのはどうかな?」と提案をし(第2話)これにみんなが乗ってしまったために、“戯れ”に目的が生まれてしまい 妙な方向に動き出すわけだ。(特にラディゲ)
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このようにスタート時点で、敵・味方どちらも、組織の体をなしていない = 全員がバラバラというのが、この番組「鳥人戦隊ジェットマン」の特徴的であり、番組テーマに関わる根本的な部分だ。
そしてそれを端的に表現していたのが、1年間流れ続けたこのアイキャッチだった。
全員バラバラな方向を見つめる5人 |
次回はこれに加え、もうひとつの "下地"
なぜ天童竜と結城凱は仲が悪いのか?
〜 リーダー・天童竜のキャラクター造形
を見ていこう。
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さて前回ふれたように今後スポットライトを浴びる機会がないので、ここでジェットマン最大の功労者を紹介しておく。
鳥人戦隊長官・小田切綾
小田切綾はスーパー戦隊史上初の女性司令官である。
『初』とは書いたが、例えば「百獣戦隊ガオレンジャー」(2001) のテトムは “まとめ役” ではあっても司令官とは言い難い…などと考えると、作戦の立案・指揮/命令を行う "純然たる司令官” というのは2015年となった現在でも珍しい。(注)
(注)他は「忍風戦隊ハリケンジャー」のおぼろさん。もしくは御前様と「侍戦隊シンケンジャー」の終盤の一時期くらいか?(「 轟轟戦隊ボウケンジャー」のミスター・ボイスは、基本はあくまで "ミスター" なので)
この小田切長官。
自らを『完璧な人生』と言い切る。
1話における絶望的な状況に 全く動じず 竜を鼓舞し、民間人である香達を説得・勧誘して周る。
また自らロボットの開発指揮、民間人組の戦闘訓練を行うだけでなく、
・既にバードニックウェーブを浴びてジェットマンとなっているはずの竜を腹パン一発で気絶させ(第1話)
・戦意を失った竜に銃口を向け発砲 & 飛行中のヘリコプターから突き落とす(第11話)
・極めつけは生身で巨大ロボに乗り込み1人で怪人を倒してしまう(第43話)
ちなみに巨大化した怪人を変身もせず、ロボットに乗り込み1人で倒してしまった指導者役は、40年にわたるスーパー戦隊の歴史の中でも小田切綾ただ1人である。
女傑である。
OPでは1話のみ『小田切綾』 2話からは『小田切長官』 |
しかし、なにより彼女が信頼のおける名司令官である証明は、1年を通して何度も繰り返されるこの台詞に現れている。
『逃げなさい』
『逃げるのよ!』
ヒーロー番組でこのセリフを躊躇なく、たびたび吐ける人はそういない。
まあ、このセリフを受けるジェットマン側はこの有様なのだが →
(アコ)「言われなくても逃げるわよ!」(第3話)
先のように戦意喪失した者に対しては鬼のような仕打ちでありながら、けして感情的にならず的確に状況を判断して、撤退させることをいとわない。
ジェットマンのトホホな現状を一番わかっているのは彼女なのだ。
おまけに戦いの日々に疲れたメンバーを 慰安旅行にまで連れてってくれる!(第36話)
つまり彼女は、民間人の寄せ集めになってしまったジェットマンの父親役と母親役を1人でこなしているのだ。
この一人二役のできる司令官ポジションというのはスーパー戦隊の歴史の中でも特異な存在である。
ここまでくると思うことは皆、ひとつ。
『長官がバードニックウェーブを浴びて戦った方が話が早かったのでは?』
どちらにせよ小田切綾、確かに完璧な人生である。
なお、結婚の申し込みは山ほどある(自己申告)そうだが、番組終了時点でいまだ独身である。