仮面ライダーBLACK編/前回までのあらすじ
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それは1988年が明けて間もない、まだ寒さの厳しい日のこと。
週刊のテレビガイド雑誌だったか、先輩の買ってきた児童向け雑誌だったかを仲間内で回し読みしていた時である。
そこには『仮面ライダーBLACK・今後の展開』ということで、翌月放送分のあらすじが載っていた。
自分は何事においてもネタバレが嫌いなので、こういう記事は飛ばすのが常だったのだが、この時はつい、目の端に入ってしまった。
そこには、こう書かれていた。
第22話「タイトル未定」
ライダーに倒された同族のハチ怪人の恨みを晴らそうとするツルギバチ怪人が登場。
ポコ太はピンときた。
『あ、これは予算節約策ですね!』
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説明しよう。
とにかく特撮は一般ドラマと比べてもアニメと比べても、段違いに金がかかる。
この30年間継続的に作られているのが、東映の戦隊シリーズとメタルヒーローシリーズ(2000年より平成ライダーシリーズへと移行)しか存在しないことがそれを物語っている。
はっきり言えば巨額のスポンサー料を払ってくれる企業(この場合はバンダイ)がバックにつかない限り、とてもではないが作れないのだ。
セットやCGなど、とにかく最初から最後まで金を喰う工程が満載なわけだが、ヒーロー、怪人などの着ぐるみもとにかく金がかかる。主役ヒーローともなれば頭部(マスク)だけで100万は軽く超える。(もちろん主役なら、そのマスクを何個も作なければならない)
平成ライダーシリーズが第一作のクウガから現在まで基本、2話分に1体しか怪人が登場しないのは、毎回新しい怪人が登場する戦隊シリーズとの予算の差であるのだ。
というわけで第1クールで視聴者を掴んだら、やってくるのが着ぐるみを再利用したリメイク怪人である。
今回の仮面ライダーBLACKでいえば、既にお役御免となったハチ怪人(第9話)の着ぐるみに手を加えて再利用し、1話分の着ぐるみ製作予算を節約する、というわけだ。
その背景として『ハチ怪人の同族』という設定にしたのは、出来上がった着ぐるみに元のハチ怪人の面影が残っていても視聴者側も受け入れやすいからだろう。
ポコ太は第22話のあらすじからここまでを読み取り、一人勝手に納得していた。
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しかし告白せねばなるまい。
自分はこの番組をナメていた。
仮面ライダーBLACKの製作陣のこだわりは、自分の予想をはるか(斜め上に)超えていたのだ。
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時は過ぎ1988年3月6日、問題の第22話放送の日がやってきた。
同族のハチ怪人の恨みを晴らそうと大幹部達の前に直訴に現れたツルギバチ怪人の姿を見て、自分は言葉を失った。
まず第9話に登場したハチ怪人を見ていただこう。
こいつはこいつで、なかなかカッコイイ。
そしてこちらが問題のツルギバチ怪人
完・全・新・作・!?
どこからどう見ても、完・全・新・作・!!
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ということはだ。仮面ライダーBLACKの製作陣にとってツルギバチ怪人とは予算節約などではなかったという事になる。
ただただ純粋に「もう一体、蜂の怪人を出したい」だけだったわけだ。
わざわざ高いお金をかけて、また、蜂!
しかも『ツルギバチ』などという、現実には存在しない種類をでっちあげてまで!!
たしかに「ひとつの番組に同一モチーフの怪人を複数出してはいけない」という条例も放送コードも無いわけで、なにを出そうが自由ではあるのだが、だがしかし、先に書いた予算節約以外の理由でそれを行った番組は、ちょっと記憶に無い。
一体どういう流れの製作会議を経れば、こんな案が通るのか?
まさかこの後、ジガバチ怪人とかアシナガバチ怪人とかセイヨウミツバチ怪人とか、延々と蜂系の怪人が登場するのではないか…。
今、目の前で起こっていることが理解できず、自分は動揺した。
正直に言ってあれから30年近く経った今現在においても、この意図は全く理解できない。
ただ今回の件といい、前々回で見たような妙なモチーフ・セレクトの怪人達といい、製作陣の中に トチ狂った …個性的な感覚を持った人がいたのは間違いないだろう。
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しかしその存在自体には釈然としない点はあれど、このツルギバチ怪人、惚れ惚れするほどかっこいい。
あの日から今に至るまで、ポコ太の Favorite☆ゴルゴム怪人 である。
ありがとう!よくわからないこだわりのひと!!
仮面ライダーBLACK編/おしまい。