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2015年11月21日土曜日

[特撮-10] 鳥人戦隊ジェットマンは本当に恋愛ドラマだったのか? 〜その3

さて『ジェットマン・エントリー』第三弾


「鳥人戦隊ジェットマン」をご存じないという 悲しい人生を送られてきた方 は、是非こちらからあらすじなど、ご確認ください。

 ​[特撮-08] 鳥人戦隊ジェットマンは本当に恋愛ドラマだったのか? 〜その1
 [特撮-09] 鳥人戦隊ジェットマンは本当に恋愛ドラマだったのか? 〜その2

なお、読んだからといって 人生どうにもならないこともあります のであしからず。






リーダー・天童竜のキャラクター造形


ではここからはもう1つの要素。
レッドホーク / 天堂竜の人物像を見ていこう。

この番組にはとにかく 結城凱という "飛び道具" がいるので、とかくそこに話題が集中しがちだが、実は天道竜という男も革新的なレッドだった。

一見、模範的なレッドに見える竜のどこが革新的だったのか?
そもそも 竜と凱はなぜ仲が悪いのか? それぞれの側から見てみよう。






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 結城凱の場合 


とはいえ、凱に関しては特に書くことはない。

そもそも この番組に凱と仲の良い男性は登場しない(笑)(注)
初登場シーンで自分から「俺は納豆と男が大嫌いなんだっ!」と言い切ってしまっているわけなので…。

ただ重要なポイントとして、竜との関係性は前回書いたような『女をめぐって殴り合いになる』といった巷のイメージとは違う、ということ。


凱が竜を嫌うのは恋のライバルだからではない。


その証拠に第2話でジェットマンへ勧誘しに来た竜と、初対面にもかかわらずいきなり大乱闘になってしまっている。


 凱「第一、俺はてめえみたいなタイプ大っ嫌いなんだよ!」
 竜「お前には何もわかっていない。地球が危ないんだぞ!個人的な感情なんて問題じゃないだろ!」


この時点で凱はまだ、他の3人(香・雷太・アコ)と出会っていない。
つまりこの喧嘩は香に対する色恋沙汰ではない。
なのに(バードニックウェーブによって得た力をフルに使った)この大乱闘。

凱はただ純粋に竜と "ウマが合わない" のだ。




もう1つ挙げておきたいのは、凱が魅力的なのは(視聴者に対し)無様な姿もさらけ出せることである。


第14話ラストにて、自分の至らなさに地面を叩いて悔しがる凱。
もっともこの "至らなさ" というのは戦士としての至らなさではなく、香を振り向かすことができない自分の至らなさ なのだが…。


また第18話では敵の攻撃に体を侵され、最初こそ虚勢を張っていたものの、いよいよとなると
 「香、怖いんだ…本当はどうしようもなく…死にたくねえ…死にたくねー!!」




アウトローというのはそれだけで一定の人気が出るものではあるが、この格好良い・悪いを越え、むき出しで自分を表現する凱に多くの視聴者は共感した。

そんな生き方をしてきた凱にとって目の前に現れた竜は、彼が否定してきた(実態の無い)『世間一般的な規範・規律』そのもの である。

それだけに竜のことが鼻につくのである。



(注)ただ "仲の良い女性" も登場しない。出てくるのは "遊びの女" ばかりだ。
この、脚本家・井上敏樹が好んで書く "遊び人でありながら、結局独りでしか生きてゆけない男" というのは、その後先鋭化した形で「超光戦士シャンゼリオン (1996)」涼村暁へと受け継がれていく。







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 天童竜の場合 


さて問題なのが、竜の方だ。
ちょっと凱との会話を見てみよう。

 凱「もうテメェの説教にはうんざりだぜ!人のために自分を犠牲にすりゃ、それで良いのか?そんな人生はまっぴらだぜ!俺の夢は、俺の気持ちはどうなるんだ?!」
 竜「自分を犠牲にするのが戦士の仕事だ!お前の考え方はみんなのチームワークを乱しているだけだ!!」
(第31話)


番組スタートから半年位、2人は 事あるごとにこの調子 だ。
例えばウィキペディアでも竜の人物像はこう紹介されている。

 → プロ意識が強く、公私を混同しないことを己の信条とし、リーダーとしての責任感と平和を守る使命感は強い。

この人物像自体は間違っていない。(このエントリーを最後まで読んでから、もう一度この紹介を読むと "間違ってはいない" という意味が分かるはずだ)

この紹介や凱とのやりとりを見ると、彼は正統派の戦隊レッド=リーダー像にみえる。




しかし竜が本来そういう人間でない事は、第1話冒頭で描かれている。



リエという公私ともにわたるパートナーがいた頃の竜は…
仕事中でも公衆の面前でいちゃつき、極秘任務で小田切長官に呼び出された際も、手を握り合い長官にたしなめられる バカップル状態。



この時『ジェットマン』なるものを初めて聞いた2人は、

 リエ「人間を超えるって、なにか妙なものになっちゃうんですか?」
↑こちらはちゃんと長官の話を聞いている。

それに対し竜の反応は↓
 「あの、ジェットマンとかになると僕たちのコンビは解消ってことに…?」

ここで竜が気にしているのは、ジェットマンとは何か?ではなく、ジェットマンに加入することによってリエと一緒にいられなくなるのでは?ということ。しかもそれを長官に対し臆面もなくストレートに聞いてしまっている。



また1年を通して頻繁にインサートされるリエとの思い出シーン。
そこで見せるはじけた表情は、やはり "ジェットマンの天童竜" とはズレがある。


これだけ見ると、恋人との関係に依存しきった(彼女がいないと何も手につかなくなるような) "ただ仕事ができるだけ” の情けない男だ。





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結局、番組の大半で竜が公に見せる言動は、掛け替えのないリエを失ってしまったことによる喪失感。そしてリエを奪ったバイラムに対する怒り。という個人的な感情を押さえ込み、『地球を守る』という大義にすり替えている だけに過ぎないわけだ。


だから竜は絶対に本音で喋るわけにはいかない。


自分を押し殺し、それが軍人としての使命と言い聞かせるしかないのだ。
たとえそれがやせ我慢だろうと、竜が踏ん張っていないと寄せ集め集団のジェットマンなど、あっという間に崩れてしまうのも、また事実 なのだから。


その上で竜のセリフを見直せば、凱に向けて発している言葉は、おそらく常日頃 自分自身に言い聞かせている言葉 なのだということが伺えるだろう。

「地球が危ないんだぞ!個人的な感情なんて問題じゃないだろ!」
「自分を犠牲にするのが戦士の仕事だ!」



竜から見れば凱の自由気ままな言動は、普段押し殺している自分を見せつけられる ようなもの。
なので竜は凱に対して大上段から説き伏せようとしてしまうのだ。





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しかし、それだけに本来リーダーの素質がない竜は、度々やらかしてしまう。


猛アタックをかけてくる香に対し「会わせた人がいるんだ」と誘い出す → 完全に舞い上がる香 → しかし竜が連れて行ったのはリエのお墓 → 呆然とする香の前でリエとの思い出をとうとうと語りだす(第22話)


「リエ…俺が愛したたった一人の女性だった」
「今でも俺は忘れられない…リエの声、ちょっとした仕草、初めてのデートの時どんな服を着ていたのか…」
「リエが死んでも俺たちはずっと一緒だった…ずっと一緒に戦ってきた」

竜の変身ブレスレットの裏にはベッタリとリエの写真が…。


いや、気持ちは分かるぞ、竜…気持ちは分かるけどなぁ…ちょっとそれは…好いてくれる女に聞かせる話じゃないと思うぞ…。


案の定、ショックを受けて泣きながら1人で帰ってしまう香。
その背中に向かって、またトンデモなく余計な一言

「かおりーっ、凱を、凱を見てやってくれ、あいつは本気でお前を…」




『こうすれば香は自分をあきらめるだろう。そして凱とくっつけばジェットマンの結束が高まるはずだ

竜はジェットマン全体のことを常に想いながらも、凱や香の気持ちを逆なでするような言動で肝心のチームとしての一体感を 自分から壊している面がある。

彼には一人一人の気持ちにまで気を配れるような余裕がない。要するに空回っているのだ。

 凱「(嘲笑)ジェットマンか…お前の頭の中はそればっかりだ」(第22話)





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さらにその後、敵バイラムの幹部・マリアの正体がリエであることに気付いてしまうという 最大の試練が訪れる。


なお『戦いの際、マリアと何度も顔を合わせているのに、今まで気づかなかったのかよ?』というツッコミをたまに聞くが、すでに第5話の時点でマリアがリエと似ているという事は気付いている。(画像参照。しかし、いつ見ても凄いサブタイトル…
しかし、この時点では『リエであるはずがない。リエは死んだんだ』と自分に言いきかせて思いを断ち切った。
これも意地悪く見れば、深く考えないよう逃げたともとれる。






しかし第31話において、ついに否定しようがないかたちで現実を見せつけられることとなる。
この極限状態に対しては、もはや付け焼き刃が通用するはずもなく、ここから 竜本来のメンタルの弱さが次々と露呈してしまう。




見るもの全てを ドン引き させた哀れな竜の姿。

・現実を受け入れられず、自分の殻に閉じ籠り妄想のリエと遊ぶ。(第32話)
 「凱、香…紹介するよ。俺の恋人、リエだ」





・一人きりでリエの誕生日パーティーを始める(第48話)
 誰もいない空席に向かって真顔で「リエ…誕生日おめでとう」





かつて、ここまで情けない姿をさらけ出したレッドがいるだろうか?
いやいない。(反語)



だが、しかし…





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 雷太「…そうなんだよ…いつも偉そうなこと言ってる割には、てんで情けないんだ…」
 凱「…竜の悪口を言うんじゃねえ…いいか!世界中で奴を、竜を貶していいのは俺だけだ!」

だがしかし、このむき出しになってしまった竜に対し、共感を覚えるようになっていくのが他ならぬ凱であった…。






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天道竜が、そして「鳥人戦隊ジェットマン」が革新的だったのは、本来リーダーには向かない者が、それでもレッドとしてみんなを引っ張っていかなければならない状況に追い込まれた戦隊ということ。

これはその後『本来の適格者ではない "代理人としてのレッド"という形で「星獣戦隊ギンガマン (1998)」「未来戦隊タイムレンジャー (2000)」など(注)小林靖子脚本作品に多く見られる構造である。
(注・超特大ネタバレを含むのであえて『など』とした。また戦隊以外では「仮面ライダー龍騎 (2002)」もこれにあたるだろう)

しかし凱という飛び道具のせいで目立たないものの、1991年の時点でその源流となるような "仕掛け" があったということだ。





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というわけでまずは、あえてこの番組の土台部分から見てきた。

ここには 肝心の恋愛要素が全く無い ということが分かっていただけただろうか。
次回以降はいよいよこの番組における恋愛要素について
なぜ恋愛要素が組み入れられたのか?
どこが恋愛ドラマであり、どこが恋愛ドラマではなかったのかを見ていこう。







…と、その前に
もうひとつのblogの方で先日まで 秋のネガティブ祭 というエントリーを書いていましたが、これは 単なる序章に過ぎなかった!

次回、このblog『CHAKAPOCO!AIRMAIL』にて
"真の秋のネガティブ祭り"
の幕が上がる!!


というわけで遅れましたが今月のオリジナル新曲

タイトルはその名も「慟哭」

愚かな人間どもよ、ドン引きするがよい。ワッハッハッハ (本エントリーの趣旨に沿ってラディゲ風)

んじゃ、また。